橋本環奈が「美女」を演じる健全さ。テレビとは「ルッキズム」を愉しむものだ【宝泉薫】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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橋本環奈が「美女」を演じる健全さ。テレビとは「ルッキズム」を愉しむものだ【宝泉薫】

 

 

 なお、この回には能瀬慶子も出ていた。史上有数の音痴なアイドルだ。しかし、可愛い。可愛い子が歌えば音痴でも聴ける、というのがまた、芸能とルッキズムの面白さでもある。

 それとともに、美人ではないほうが実力が割り増しになるという面白さも存在する。美人歌手が売れても、顔のおかげだろうなどと言われがちだが、いわゆる実力派歌手は掛け値なしの歌の上手さでのし上がったと思われがちだ。大橋もそうだし、天童よしみや広瀬香美も、最近だと島津亜矢あたりもまさにその恩恵を受けている。

 女優もまたしかり。樹木希林が吉永小百合レベルの容姿だったら、あれほど演技力が神格化されることもなかったはずだ。

 そういえば「ビューティフル・ミー」の翌年、樹木が出演したCMのキャッチコピーが流行語になった。岸本加世子と共演したフジカラーのCMだ。

 樹木扮する綾小路さゆりが写真屋に現れ、岸本扮する店番に、

「美しい方はより美しく、そうでない方はそれなりに写ります」

 と説明されるもの。何やら前出の「ちびまる子ちゃん」を思い出させるCMでもある。

 とまあ、当時はルッキズムを愉しむ余裕がテレビにも世の中にもあった。その余裕を減らしたのは、変にゆがんだ平等志向。運動会の徒競走で順位付けをやめ、同時にゴールインしましょう的な発想である。

 ただ、ルッキズムの場合、その基準はかなり曖昧で主観的だ。つまり、誰かにとってのブスが誰かにとっての美人にもなる。夫婦共演CMで、北斗晶にデレデレする佐々木健介などを見ていると、つくづくその不思議さに感心する。

 北斗といえば、同時期に乳がんに倒れたのが小林麻央だった。佳人薄命というやつで、亡くなるとすれば小林のほうだろうかと思ったものだが、本当にそうなった。実際には、ルッキズムと寿命は関係がないのかもしれないが、美女が夭折するほうが惜しい気分にさせられ、印象に残りやすいのだろう。

 とまあ、ルッキズムと寿命を結びつけて考えるのも、人間がずっとやってきたことだ。「源氏物語」しかり「椿姫」しかり、古今東西の文学にもそのあたりが反映されてきた。筆者が「痩せ姫」と名付け、偏愛する女性たちのなかに、夭折願望が色濃かったりするのも、早すぎる死がその生を美しく定着させるという淡い幻想によるものかもしれない。

 そういえば、冒頭で触れた橋本環奈の新作連ドラ「王様に捧ぐ薬指」で相手役を務めるのは山田涼介。ジャニーズきってのイケメンである。一昨年の映画「燃えよ剣」では沖田総司を演じ、昔の市川雷蔵のような妖しい美しさが印象に残った。

 ちなみに、肺結核で夭折する沖田はイケメンが演じる定番みたいな歴史上の人物だが、美男子だった証拠は残されておらず、司馬遼太郎の小説などの影響が大きいようだ。その死に方が史実すら改変してしまったわけで、ルッキズムの魔法がここにも垣間見える。

 なお「王様に捧ぐ薬指」は女性向けの同名マンガが原作。「ちびまる子ちゃん」がそうであるように、ルッキズムが何よりモノをいうジャンルだ。そんな世界を山田や橋本のような美男美女が演じるのは、じつに王道的だといえる。ルッキズムの愉しさを存分に堪能したい。

 

文:宝泉薫(作家・芸能評論家)

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宝泉 薫

ほうせん かおる

1964年生まれ。主にテレビ・音楽、ダイエット・メンタルヘルスについて執筆。1995年に『ドキュメント摂食障害―明日の私を見つめて』(時事通信社・加藤秀樹名義)を出版する。2016年には『痩せ姫 生きづらさの果てに』(KKベストセラーズ)が話題に。近刊に『あのアイドルがなぜヌードに』(文春ムック)『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、最新刊に『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)がある。ツイッターは、@fuji507で更新中。 


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